いやしの道具

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先日、お客様のところに伺いまして、社長に書類の説明をして代表印をいただこうとしました。社長さんはもう70歳くらいの男性で、この道うん十年というベテランです。

そのとき、社長さんが筆箱よりやや大きいくらいの、布製の印鑑ケースをとりだしました。それも、水玉模様のきれいな印鑑ケースでした。そして中をあけてごそごそやり始めました。いろんな印鑑が入っているようで、私もちょっとのぞいて見ましたが、いろいろなものが乱雑に入っていて、なんだかド田舎的な感じがしましたが、印鑑ケースはとてもかわいらしい、女の子っぽい、印鑑ケースでした。「社長にはこういう趣味があるのかなあ」と私はちょっと微笑んでしまいましたが、どうやら社長さんが柘材の代表印と朱肉を取り出し、押印の準備ができたようなので、私は押印の位置を説明しながら、押印しやすいように書類を社長に向けました。多分、この柘の代表印を作ったときは、会社の発展を願って、高価な柘の印鑑を作ったのだと思いますが、その後の仕事に追いまくられる生活が長く続き、見栄えなど関係ないという素朴な心境に戻ったのだと思います。この社長さんがその印鑑ケースを持つのは、不思議な感じがしましたが、これはこれで、社長の心に温もりを与えていやしてくれているのかもしれません。
印鑑は格式高く力と権力を表す反面、やさしさと温もりの伝わるような、いやしの道具であると、ますます人の輪が広がるのではないでしょうか。私はそう思っています。
ところでその社長さん、ときどき怒ると怖いですよ。ガンガン言ってきます。これでも水玉模様の印鑑ケースをもっていることで、多少はやさしくなっているのだと思います。

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